翻訳絵本『13人のサンタクロース アイスランドにつたわるクリスマス』日本語版ブックデザイン(表紙・帯・本文デザイン)
『13人のサンタクロース アイスランドにつたわるクリスマス』は、アイスランドで親しまれてきた絵本『Jólin okkar』の日本語版です。日本での出版にあたり、表紙および本文の日本語版デザインを担当し、あわせてオリジナルデザインによる作者紹介ページと帯を制作しました。原書が持つ独特の空気感や文化的背景を丁寧に読み解き、日本の読者にも自然に伝わるよう、デザインの面から検討し、かたちにしています。
物語は、いわゆる赤い服のサンタクロースとは異なる、個性豊かな「13人のサンタクロース」が登場し、クリスマスの13日前からひとりずつ山から下りてくるという、アイスランドならではの風習や言い伝えを紹介していきます。少し怖くて、どこかユーモラスなイラストとともに進む構成は、文化紹介でありながら物語性も強く、ページごとに異なる表情を持っています。デザインにあたっては、まず原書を徹底的に検証し、全体のトーンや情報整理の方法を検討したうえで、テキストの組み方や書体選定のための各種組見本を制作するところからスタートしました。
表紙では、タイトルの扱いが大きなポイントとなりました。複数の案を検討した結果、本文と同じ書体を使用することで、全体の統一感を重視しています。また、通常のカラー印刷に加え、タイトル部分には金の箔押しを施し、原書同様、クリスマスの特別感や祝祭性を視覚的に強調しました。落ち着いた色調の中で、箔の輝きが静かに存在感を放つよう、仕上がりのバランスにも細心の注意を払っています。
帯のデザインでは、クリスマスらしさを直感的に伝えるため、赤を基調とした配色を採用しました。この絵本を象徴するエピソードである「靴にプレゼントを入れてくれる」という習慣をモチーフにしたイラストを用い、13人のサンタクロースが次々に登場するというワクワク感を、ひと目で伝える構成としています。物語の入口として、読者の好奇心をやさしく刺激する役割を意識しました。
本文デザインでは、可読性と物語性の両立が大きな課題でした。日付や文頭の文字、サンタクロースの名前がイタリック体で表記されるほか、本文中にはアイスランド語がそのまま登場します。どのような状況でも破綻せず、かつ内容にふさわしい表情を持つ書体を選定することに注力しました。特に、日本語の中にアイスランド語の名前や単語のスペルが補足として頻繁に入るため、和文と欧文を混ぜて組む和欧混植では、言語の違いが自然に伝わりつつ、読みづらさや違和感が生じないよう、欧文フォントのデザインとウェイトを慎重に選んでいます。
また、原書ではイラストに回り込むようにテキストが配置されており、ほぼすべてのページでレイアウトが異なります。日本語で同じ構造を再現することは容易ではありませんでしたが、意味の切れ目や改行位置を何度も調整し、できる限り読みやすく、かつイラストの魅力を損なわない配置を探りました。ページごとに最適解を探す作業は手間のかかる工程でしたが、この絵本ならではの世界観を守るために欠かせないプロセスだったと考えています。
全体としては、誰もが知るサンタクロース像ではなく、少し風変わりで親しみのある「13人のサンタクロース」が生きる、アイスランド独特の世界観を大切にデザインしました。異文化の物語を、日本の読者が無理なく楽しめる一冊として成立させることを目指し、デザインの視点からその魅力を整理し、かたちにした絵本です。
(※絵本のデザインは、出版社から許可をいただいて掲載しております。)
クライアント:ゆぎ書房 様 作:ブリアン・ピルキングトン 様 訳:朱位昌併 様
こちらのブログページには、実物の写真も掲載しております。
・日本語版のブックデザインを担当した『13人のサンタクロース』(アイスランドの翻訳絵本)の出版と関連イベントのお知らせです。