翻訳絵本『もしぼくが鳥だったら:パレスチナとガザのものがたり』日本語版ブックデザイン(表紙・帯・本文デザイン)
翻訳絵本『もしぼくが鳥だったら:パレスチナとガザのものがたり』は、UAE(アラブ首長国連邦)で出版された絵本の日本語版です。日本での出版にあたり、表紙および本文の日本語版デザインに加え、オリジナルデザインで帯と解説ページを制作しました。
物語は、パレスチナのガザ地区で暮らす少年のまなざしを通して描かれており、静かな語り口のなかに、土地の記憶や祈り、失われつつある日常への思いが丁寧に込められています。日本語版のデザインでも、その繊細な感情の流れを損なわず、読者が自然に物語の世界へ入っていけることを大切にしました。
表紙は原書と同様に、特色の金を用いた5色刷りです。落ち着いた地色の上に、やわらかな光を含んだ画面が浮かび上がる構成によって、物語全体に通底する静けさと緊張感を、一冊の佇まいのなかに収めています。タイトルは、少年が描いた鳥が今まさに飛び立とうとするイラストの流れに呼応するよう、文字のかたちや間隔を細かく調整しながらデザインしました。絵の呼吸を妨げず、それでいて確かな存在感をもつ文字に整えることで、物語の入口としてふさわしい表紙を目指しています。
帯と解説ページのビジュアルには、物語にとって象徴的な存在である「オレンジの木」をモチーフとして取り入れました。鮮やかな色を帯に置くことで書店店頭での視認性を確保しつつ、本の内容から切り離された装飾にはせず、物語の記憶へとつながる要素として機能させています。読者が本を開く前の段階から、この物語が宿す土地の気配や感情の層に、そっと触れられるよう意図した設計です。
本文では、この絵本が主人公である少年の目線で語られていることを重視し、多数の候補のなかから、その声にふさわしいフォントを選定しました。幼さだけでなく、内にある切実さやまっすぐな思いも感じられる文字であることを大切にし、場面に応じてサイズやウェイトを調整することで、少年の声の強弱や心の揺れを表現しています。絵と言葉の距離感を慎重に整えることで、読者が文章を「読む」だけでなく、「聞く」ように受け取れることを意識しました。
全体としてはシンプルな構成ですが、そのぶん、タイトルや本文に用いる文字の選定と調整が、読後の印象を大きく左右する一冊でもありました。絵のもつ静かな力を活かしながら、日本語としての読みやすさと感情の伝わり方を両立させるため、タイポグラフィの細部まで丁寧に設計しています。また、この絵本を通して、パレスチナの問題をより多くの方に知っていただくことも、大切な前提として考え、強く説明しすぎるのではなく、物語そのものの力が読者に届くよう、デザインの側から静かに寄り添うことを意識して制作しました。
(※絵本のデザインは、出版社から許可をいただいて掲載しております。)
クライアント:ゆぎ書房 様 文:ファーティマ・シャラフェッディーン 様 絵:アマル 様
訳:片桐早織 様 巻末解説:鈴木啓之 様
こちらのブログページには、実物の写真も掲載しております。
●日本語版のブックデザインを担当した『もしぼくが鳥だったら:パレスチナとガザのものがたり』(翻訳絵本)が出版されました。